ハンディペーパーレスプリンタ案

この記事は、過去のブログの記事に加筆・修正を加え、再編集したものです。

HTMLやらPDFやらといった、紙に取って代わりそうなデジタル技術が登場したりというのもあって、昔からペーパーレス社会がやってくると期待はされていたものの、どうやらなかなかやってこなさそうだという雰囲気が出てきていると感じている。私などはもう永遠にやってこないと諦めていた。

なぜ、ペーパーレスは実現できなそうに見えているのか。おそらく、今のデジタル技術は、我々が『紙』に求めていた要件を、まだまだ満たせていないからだ。では、その「未だ満たされない要件」とは、具体的にどういうものなのか考えてみる。それが明らかになれば、つまり、「それらの要件を全て満たせば、ペーパーレス社会は実現する」ということに結び付けられるだろう。

すでに惜しいところまで来てるのでは・・・?

現実的なところで、すでに近しいところまで来ていそうな製品がある。

  • ひとつはタッチパネル。PalmOSやザウルスなど、ハンドヘルド機用のOSは何年か前から実績を重ねてきている。WindowsVistaのようなタッチパネルを標準機能として持ったPC向けOSも出てきた。Androidもその一つ。
  • それからPDFやHTMLなどのファイル形式。ブラウザ側も高機能化し、安定してきた。
  • UI(ユーザインターフェイス)。iPhone/iPod touchがもたらした直感的なインターフェイスは、紙を触る感覚にかなり近づいたのではないか。NintendoDSも、UIという観点で実は隅に捨て置けない。

というわけで、惜しいところまで来てはいるところの、その惜しい所以たる要件を挙げてみよう。

ペーパーレス実現の要件

赤入れ。

ペンで書き込みができること。
いま、紙を卒業できない理由のひとつが、赤入れ。自分や他の誰かが作った文書を確認する作業。間違いやダメな箇所を見つけたときに、すぐに書き込みたいのだが、マウスやキーボードではその即時性には追いつけない。

書き込みはファイルとは別

紙の良さとして、どんだけぐちゃぐちゃに書き込みしても、オリジナルのファイルに影響しないという安心感がある。だから、書き込みはビュワー上で行われ、オリジナルファイルとは別領域で管理されていないとまずい。

だけど、書き込んだ内容は共有できないとダメ

もちろん赤入れしたら、作者と共有しないと意味がない。

ピラピラとページをめくれる

iPod touchのインターフェイスは、すでに近しい操作を実現している。

付箋貼りたい

重要なページにペタペタ付箋を貼り付けたい。ちなみに、付箋の貼り方には、人それぞれ流儀がある。これ、吸収してほしい。

本棚にしまえる

読んだ本の内容は、本棚の背表紙からフラッシュバックされたりする。この効果は、関連付いたアプリケーションのアイコンと、無表情なテキストのファイル名とからなる、PCのファイルの本棚にはない価値である。

A4サイズ

オフィスのスタンダードになっているであろうA4サイズは、書くにも読むにも慣れている。大きすぎてもダメだし、小さすぎれば書き込みしづらく、上手くない。

だけど持ち運び易く

A4だとポータブルというにはちとデカい。持ち運ぶは重要な要素なので、何とか折り合いつけないといけない。

ローカル環境に保存領域を

ネットワーク通信機能はあってもいいが、地下鉄で使えないのはつらいので、あくまで単体の環境下で作業を完結できたい。

電池長持ち

すぐに電源が切れて読めなくなってはダメだ。がんがん使い倒しても24時間とか持続できたらうれしい。

パソコンとは別のもの

すでに多くを求めすぎな感があるPCの機能と一緒くたにする事を目指せば、ぐちゃぐちゃになって使いにくく、非直感的なものになるだろう。最終的に一緒くたにできるというならウェルカムだが、取り急ぎは別物として考えを進めた方がシンプルだし、紙の使用感に近い。ただし、価格はキモになる。

はじっこをふしゃふしゃにできる

私は印刷した紙を読んでいると、知らず知らずのうちにその紙をはじっこからふしゃふしゃにしてしまう癖がある。この機能、ぜひ実現してほしい。あと、よく参照するファイルはどんどんぼろぼろになっていく機能とか。

これらの条件がすべて満たせるなら、私はペーパーレスできそうな気がしてる。みなさんはどうでしょうか。

対策を練ってみる

そこで今回は対策のために、1つアイデアを考えてみた。先ほど挙げた要件を全て満たせるものではないが、いくらかペーパレスに近づくことはできるだろうと思う。注目したのは、オフィスでよくやる「Eメールの印刷」。

長いメールや企画書などの電子文書を受け取ったとき、画面で見るのは苦痛だ。デジタル文書は検索性や視認性も高そうに思えるが、他の文書と対比しながら読んだり、3ページ目と23ページ目を並べて見づらいなど、以外と難しい場面は多い。何より、椅子に座って前傾でPCモニターに向かう姿勢が疲れて仕方ない。

結果として、それを印刷して、赤ペンを手に、休憩室や喫煙室や喫茶店に行く。そこまで行かなくても、デスクで見るにも、印刷したほうが見やすい。そして、その10枚や20枚といった大量の印刷紙は、読んだらもう不要だ。シュレッダーにかけられて、破棄されてしまう。

紙には、まだこういう使い方がある。このような行動をしているのは、おそらく私だけではないと思う。

企業では、印刷にかかる紙やトナーのコストが嵩んで頭を抱えているだろう。無駄な印刷をせず、なるべく "2 in 1" や "4 in 1"(2ページ分、4ページ分を1枚に印刷する設定) で、モノクロにするように、全社向けのメールで呼びかけたりする。このようなメールを受け取ったことがある人は、かなり多いのではないだろうか。

紙を出さないプリンタ「ハンディペーパーレスプリンタ」

そこで、今回表題の「ハンディペーパーレスプリンタ」という案。MacBook Air ばりに薄いA4サイズの液晶モニタ端末である。


先ほどもチラっと触れたが、「何でもできるツールには、紙の代わりは勤まらない」と考えている。

すでに多くを求めすぎな感があるPCの機能と一緒くたにする事を目指せば、ぐちゃぐちゃになって使いにくく、非直感的なものになるだろう。

つまり、パソコンでは紙の代わりにはなれないということだ。

ハンディペーパーレスプリンタ案では、単純に「擬似プリンタである」というスタンスを取り、一時的に印刷したい長文メールや作りかけの企画書などの、「読んだらすぐ捨てられる日常的印刷物」を削減するためだけに使うものとして想定している。

この製品に同梱される内容は次の通り。

  • ハンディペーパーレスプリンタ本体
  • 専用スタイラス
  • USBドック
  • プリンタドライバCD-ROM

まず最初にすることは、付属のプリンタドライバCD-ROMから専用のプリンタドライバをPCにインストールする。次に、USBドックをPCに接続し、その上に本体をセット。そして、PCから長文メールを印刷するだけだ。


PC側からすれば、新しいプリンタが1つ追加されたようにしか見えていない。ところが受け取った側(ハンディペーパーレスプリンタ)は、印刷紙を出力しない。その代わりに、本体の中にその印刷データをストックするのだ。

あとは、ハンディペーパーレスプリンタをUSBドックから外して、休憩室へでも喫煙室へでも持って行けばいい。そして、タバコをふかしてコーヒーをすすりながら読んだ後は、潔く削除するだけだ。

本体に仕舞い込まれているスタイラスを使って、メモを書き込むこともできる。メモを書き込んだデータは、USBドックからPCへ戻してもいいが、飽くまで紙の使用感を追求するならば、それを見ながらマスターデータを修正して、そしてメモごと潔く削除してもいい。

ちなみに、プリンタとしてPCからデータを受け取るので、Microsoft Word でも Excel でも、あるいは PDF や HTML の印刷でも、すべて何らかの同一の汎用形式に変換されていると考えられる。そのため、メモを書き記した状態でPCへ戻したとしても、マスターデータをそのまま置き換えることはできない。(できない方がいい)

会議室でも印刷物削減

飽くまで1人に1台。個人的な無駄な印刷を省くためのエコ製品となるだろうが、もしも社内のみんながこれを持っていたら、個人的なエコではなくなるかも知れない。

次の例は、会議室で印刷して配るような、配布資料を削減する構成案。


この絵には、新しいアイテム「ペーパレスプリンタハブ(別売)」が登場する。

プレゼンターは、配布資料のデジタルデータを自身のノートPCに入れて会議室に持ち込み、プリンタハブをUSBで接続する。この会議室には、プリンタハブから10本のケーブルが各席に伸びており、ハブに対してプリントキューを送信すると、10本のケーブルの先全てに対して印刷データが送信されるという仕組みだ。

ゲストはハンディペーパーレスプリンタをそれぞれ持参(あるいは、10人席の会議室に10台据え付けてもいいかも知れない)しており、それぞれが着席すると、席の前にはUSBミニA端子があって、プレゼンターが配布資料を印刷すると、ゲスト10人のハンディペーパーレスプリンタに転送されるというわけだ。

会議の配布資料も、殆どの場合、永久保存の必要のない一時的印刷物であり、これらも、会議が終わればシュレッダーへ転送される運命にある。ハンディペーパーレスプリンタ上で完結できるならば、大幅な印刷コストの削減につながるだろう。

どれくらいの端末スペックが要求されるだろうか

読んだらすぐ削除する想定なので、さほど大量のメモリを積んでいる必要はないし、電池も3~4時間持てば十分ではなかろうか。タッチスクリーンが必要だが、これもかなり安くなってきている。

知識がないので想像の範囲を出ないが、2万円前後で実現できるとうれしい。

製品ランクがあってもいい。白黒ディスプレイだと、1万2000円、とか。iPod touch のようなマルチタッチインターフェイスで、紙をパラパラとめくる感じや、削除するために、紙をビリビリに破くジェスチャーを再現したりとか、WIRED VISIONの記事で見かけた 巻物式ディスプレーの『Readius』は売れるか にあるような、折曲がるディスプレイを採用して、折りたたんでポケットに入れて持ち運べるとか、高額製品には、より紙らしい特典がたくさん盛り込まれたりする。

紙らしい取り扱いに近づけば近づくほど、ユーザはきっとシビレてくれるだろう。

その他、USBドックと接続するためのインターフェイスとして、差し込む必要なく、ドックに置くだけで繋がる専用端子か、赤外線、あるいはBluetoothのような機能が必要となる。会議室で使ったりするため、USBミニA端子が直接ささるようにもなっているべきか。

その他、紙の代替という用途を守るために、ぜひとも付けて欲しくない機能として、無線/有線LAN、ワンセグチューナー、携帯網通信モジュール、その他インターネットと接続できるあらゆる機能を挙げておきたい。これらのような機能があると、機密文書のセキュリティが脅かされる危険性があるばかりか、動画を再生したいとか、ウェブサーフィンしたいとか、悪しき欲望がふつふつと沸いてきてしまうからである。その役割は iPod touch にお任せするとして、ここでは「紙を減らす」というミッションに、ユーザも集中するべきである。

労せず紙を減らしたいワガママ

近頃は世界的な環境問題を取り上げたテレビ番組やニュースをよく目にするようになり、環境に対する配慮を心がけたい気持ちはいっぱいではあるものの、それでもやはり産業革命以降の技術の進歩がもたらした文明の利器を手放すことは難しい。今回問題にした、一時的印刷物についても、やめようとしてはみても、やはり長文メールとPCモニタ越しににらめっこするのは苦痛で仕方ないのだ。

このハンディペーパーレスプリンタのような製品を使うことで、もしも多少なりとも我らが地球の寿命を延ばせるのであれば、ぜひとも、そうさせて頂きたい。

(2008/3/19)
(原文:2007/11/23~2008/1/27)


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