『ウィッシュルーム』で見るニンテンドーDSインターフェイス

つい先日、ニンテンドーDS『ウィッシュルーム 天使の記憶』を買って、プレイしている。
まだ始めたばかりで、先を楽しみにしている段階だが、いろいろ思うところがあるので、ここでレビューしてみようと思う。

といっても、まだ始めたばかりだし、ここをネタバレページにしようというわけではない。今回のテーマは『ウィッシュルーム』そのものというよりも、ニンテンドーDSの特長である、タッチペンという入力インターフェイスに重きを置く。

「ゲームにタッチペン」という発明

すでにご存知の通り、ニンテンドーDSのタッチペン然り、wiiリモコンも然り、任天堂のアイディアは斬新だ。これまでファミコンからプレステまでの間の、様々な家庭用ゲーム機に伝統的に受け継がれてきた、十字型のキーと4つないし8つ程度のボタン群から構成される、いわゆる「テレビゲーム」という入力インターフェイスは、その基礎を築いた任天堂自身の手によって、まったく新しいものに刷新された。
それまで、SONYのPlayStationやMicrosoftのXBOXが、ハードウェアの処理性能、ゲーム画面の画質など、スペックの向上に鎬を削る中で、「ゲームを遊ぶ」という本質的な側面をユーザに思い出させただけでなく、「ペンで画面に直接触れて操作する」という直感的なインターフェイスは、これまでゲームとは疎遠だった団塊の世代以上のお年寄りまで幅広いユーザに受け入れられた。まさに革命といえるほどの、画期的な素晴らしい発明だ。

当初、ニンテンドーDS発売前には、ゲーム機にタッチペンがついたら何ができるのか、私には想像できなかった。「ホントにそんなものを出して大丈夫なのか」と心配にさえなったが、蓋を開ければ、『えいご漬け』や『ニンテンドッグス』など、従来の「ゲーム」というニュアンスからは少し外れた新しいジャンルのソフトで、大いに納得させられることになった。

しかし、惜しいのは、タッチペンならタッチペンだけ、ボタンならボタンだけで操作することを前提に意識して設計されていることだ。私のプレイしたDSのゲームはさほど多くはなく、今回で4~5本程度とサンプルは少ないが、かなり高確率でそれを感じている。今回たまたまネタにした『ウィッシュルーム』もその一つだ。重要なのは、ニンテンドーDSには「タッチパネルがついている」ではなく、「十字キーといくつかのボタンがついている」でもない。「その両方が備わっている」という点だ。

ニンテンドーDSにおける『ウィッシュルーム』のインターフェイス

主題に帰ろう。ニンテンドーDSにおける、『ウィッシュルーム』の在り方。
まず、公式サイトにもあるように、『ウィッシュルーム』のジャンルは「ミステリー」とのこと。ストーリーと謎解きが醍醐味となるジャンルだ。アクションゲームや格闘ゲームなど、操作自体にゲーム性が求められるジャンルとは違い、読み物系や、ロールプレイングゲームなどの場合は、操作は直感的で、無駄なストレスを与えないという点がかなり重要になる。これを損なうと、慣れない操作に気を取られて、せっかくの本編のストーリーが台無しになってしまう。

メモを取る操作画面の図

『ウィッシュルーム』は、この図(右図)のように、ニンテンドーDSを横にした状態でプレイする。
この図は、ゲーム中に登場人物などから収集した情報を、タッチペンでメモを取る画面だ。戸棚やら廊下やらを調べたときに見つかった、ヒントだと思う何かを、ユーザは自分で、手書きでメモを取る。会話の中で時々、主人公本人が「メモをしておこう・・・」などと発言するときがあるが、そんなときでも自動的にメモは取られない。飽くまでユーザに「自分でメモれよ」という一貫した姿勢は好ましい。元刑事という主人公の設定の通り、刑事っぽさを感じられるこの操作は、ニンテンドーDSならではの好きな点だ。
ニンテンドーDSを横にして使うというのも気に入っている。小説を読むような感覚、メモを取る感覚が上手く再現されていて、「ミステリー」というジャンルに相応しい。

「移動」の操作に難あり

ゲームをプレイしている時間の大半は、移動と調査に費やされる。この、移動と調査の操作性が、ウィッシュルームのマズイと感じるところだ。
次の画面を見ていただきたい。これは、ウィッシュルームの移動するシーンの操作画面だ。

ウィッシュルームの移動操作画面の図

ユーザはプレイ中の時間の大半を、この画面と共に過ごすことになる。この画面に入ると、右側のマップが操作画面、左側は主人公視点の一人称ビューになる。操作は、タッチペンと十字キーの両方に対応しており、どちらの場合も、右側のマップをベースに操作する。タッチペンで画面をタッチすると、主人公はその方向へ向いて移動を始める。十字キーで操作する場合は、押したキーの方向に向いて移動するといった具合だ。

問題は、移動のために必要な情報(方向など)は右画面に、ゲーム進行のために必要な情報は左画面にそれぞれレイアウトされており、ユーザは、その両方に、同時に注意を払わなければならないという点だ。
人間の目は、同時に2点を凝視することは得意じゃない。2つの目で、1点を見るように設計されている。1つの操作で複数の点を見させるこのインターフェイスには、やはりストレスを感じてしまうのだ。

そこで、この画面を操作しているときの私の視界を図にしてみた。

移動中のユーザの視界の図

「移動」の操作は右側のマップ画面をベースに行われるので、普段移動時は自然と右側画面に集中してしまう。しかし、ゲームの趣旨は「ミステリー」、あちこち注意深く調べて、謎解きをしなければならない。移動中のユーザは、上図のように、右側の簡素なマップ画面を見るのが精一杯で、詳細な描画がされている左側の一人称ビューには気を配る余裕はない。これでは、もしも通った通路に重要なヒントが落ちていたとしても、気づかずに通り過ぎてしまうだろう。

では、実際に探索している時の視界はどうかというと、次の図のようになってしまう。

探索中のユーザの視界の図

問題は、探索している間も移動操作のベースが右側マップ画面だということだ。主人公が通路を調べているとき、注意深く通路のオブジェクトに気を配っている時、すなわち、ユーザが左側の一人称ビューに気を配っているとき、直感的に上キーを押したら、前進して欲しい。しかし、上キーの操作は、視界の外にあるマップ画面をベースに処理されるので、この場合、上キーを押したときの主人公のアクションは、「前進」ではなく、「回れ右」になってしまうのだ。
タッチペンでの操作でも同じことだ。視界外の領域をタッチして操作することが前提となるため、画面の中心の正確な位置(すなわち、マップ上での主人公の現在位置)、自分が触れているポイントの正確な位置、移動のための領域以外の、ボタンなどのメニューの数と正確な位置などを把握していないと、意図したとおりの操作は難しい。

この条件の下で探索するユーザは、自分が今向いているのがどちらの方角かを常に意識しながら歩かなくてはならない。このシチュエーションが現実にあったならば、主人公には超人的な方向感覚が求められるだろう。超人的方向音痴の私には到底無理だ。

結果として、私(ユーザ)は主人公になりきることができず、感情移入、臨場感といった点で、今ひとつ納得のいかない気持ちになってしまった。

『ウィッシュルーム』の操作系はどうあるべきか?

かくして私は『ウィッシュルーム』の操作インターフェイスについて不満を持ったわけだが、それでは、どのようなインターフェイスだったら、OKだったのか考えてみる。

特に斬新な見解ではないが、ゲームキューブとプレステ2でリリースされている『バイオハザード4』を模倣するのが最適解と思っている。従来の『バイオハザード』シリーズでは、おそらくスペックの問題もあり、操作感には賛否両論あったが、バイオ4の「ビハインドカメラ」はそれを見事に改善した。強力なハードウェアスペックを要するインターフェイスではあると思うが、『ウィッシュルーム』の左側一人称ビューが実現できるのであれば、可能なはずである。一人称ビューは右画面に置き、移動や、モノを調べるなどの操作の基準は一人称ビューとし、マップ画面は参考程度に左画面に載っていたらいい。

ゲームのテーマが「ミステリー」であることを考えると、思い切って『かまいたちの夜』的なサウンドノベル形式にしてみてもテンポよくゲームを進められる。今作『ウィッシュルーム』の位置づけを、『さんまの名探偵』や『ファミコン探偵倶楽部』の進化版と考えると、その路線は『逆転裁判』シリーズが非常に上手く解決している。無駄な動きがなく、ストーリーに集中しやすい構成だ。

しかし、『ウィッシュルーム』が目指したのはおそらくそこではない。如何にユーザ自身が主人公の視点に立って、実際に探索している感覚を持てるか、フィールドを歩き、自分の目、感覚で状況を観察し、問題を解決できるかといった、リアリティを求めたのだと思う。前述の、ニンテンドーDS本体を手帳や本のように横にして使うスタイルや、ユーザに手書きのメモを取らせる工夫、今回問題にした移動系のインターフェイスも、このコンセプトにマッチする。その分、ゲーム全体の「テンポのよさ」を崩してしまっているところが、実に惜しい点、残念な点と思えるのである。

「ボタン派」「タッチペン派」、それぞれを意識したインターフェイス

『えいご漬け』や『ニンデンドッグス』は、タッチペンで操作しなければまったく意味がない。ゲームのコンセプト自体が、タッチペン操作であることを大前提としているので、こういったストレスは感じずにプレイできる。逆に、『ニュー・スーパーマリオブラザーズ』のように、キー操作を大前提としているゲームでも同様のことが言える。しかし、今作『ウィッシュルーム』や、ロールプレイングゲームの『FINAL FANTASY III』などは、「操作」そのものはコンセプト外になるジャンルだ。
パソコンには、マウスとキーボードが標準的に装備されていて、「マウス派」と「キーボード派」というのがある。同じように、ニンテンドーDSにも、先にボタンに触れてみる「ボタン派」と、とりあえずスタイラスを抜く「タッチペン派」がいるはずだ。例えば、昔からゲームでよく遊んでいるヘビーユーザは、ボタンの操作に慣れているが、ニンテンドーDSで初めてゲームに触れた年配のユーザの多くは、特に意識せずにスタイラスを抜くだろう。「操作」そのものにコンセプトを持たないジャンルのソフトは、その両方を意識して画面設計をする必要がある。つまり、ユーザは自分の好きな、あるいは得意な操作方法を選択できるべきなのだ。タッチペンを装備しているからといって、いつでも無理やり使わせる必要はない。使う必要がある場合、使った方が画期的に便利な場合に、選択肢の一つとして提供されていれば十分なのだ。

もしかして、ウェブ屋はニンテンドーDSが得意?

「ウェブ屋はニンテンドーDSを操作するのが得意」と言いたいのではもちろんない。「キー操作+タッチペン」という操作系は、「キーボード+マウス」という、パソコンのインターフェイス(というより、入力デバイス)と、似てはいないだろうか? そして、ウェブ屋は、(ブラウザを介するという前提条件はつくものの)パソコンというプラットフォームに向けたインターフェイスを専門に考えてきた。

ウェブサイトは、その性格上、様々なユーザがアクセスすることを前提に設計しなければならない。ウェブユーザビリティや、アクセシビリティなどという言葉が流行ったが、ウェブのデザインは「マウスが使えないユーザ」や「キーボードが操作できないユーザ」などを考慮して構築される(べきである)。これらには、複数の異なるブラウザだったり、ケータイやPDAなどのスモールスクリーンデバイスを使用しているユーザなどももちろん含まれる。あ、『ニンテンドーDSブラウザー』も、もちろん含まれる。という前提に立っているため、ウェブ屋さんは、キーボードだけでの操作性、マウスだけでの操作性という両方の点を意識してインターフェイスの設計を行っているのだ。
その意味で、歴史は浅いが、ウェブデザインというノウハウは、もしかしたら、任天堂という新しいプラットフォーム向けのインターフェイスデザインに役立つのではないか? と密かに思ったりしている。

ウェブ屋にしても、ゲームのインターフェイスは大いに参考にしてきた分野だ。ウェブインターフェイスは、それまでに普及していた様々なメディアの特長を併せ持つ。それがゆえに、既存の様々なインターフェイスを模倣し、試行錯誤の末に取り込んできた歴史がある。ウェブ標準化が進むにつれ安定してきてはいるものの、その努力は今もまだ続けられている。1つのウェブページでも、時によって、場合によって、見る人、操作する人によって、様々な顔を持っていたりするのだ。

今日、ニンテンドーDSやwiiは、新しいインターフェイスを提案し、実際に受け入れらている。ウェブにも、パソコンにもかつてなかった新しい操作系だ。この新しい操作系を如何に優れたものにするかは、ソフトウェアのインターフェイスデザインにかかっている。ゲーム業界のデザイナ達が現状どんな状況にあるかは詳しく知らないが、新しいプラットフォームを突きつけられたデザイナ達は、既存の他の分野を模倣したり、様々な試行錯誤を繰り返しているのではないだろうか、と勝手に想像してみる。逆に、そこが面白いところなのだろう、とも、思ってみる。

最後は必ず「人間」

この先どんな斬新なインターフェイスや操作系デバイスが登場しても、1つだけ言えることがる。最後は必ず人間だということだ。どんなインターフェイスでも、どんな色や形でも、人間は、人間に備わった機能を通じてのみ、それらと交信するということについては、古今に関わらず一貫して真である。
ということは、いま私達を取り巻くあらゆるユーザインターフェイス(水道の蛇口から、自動車のコックピットから、ありとあらゆるもの)が、参考になるはずだ。それらを通して、「人間」というプラットフォームの動作や、得手不得手を深く理解していれば、この先どんなに驚きの新発明が登場しても、そこにあるべきインターフェイスを設計できるのではないだろうか。それが、いわゆる「デザイン」の面白いところなのだろう、と、思ってみる。

( 2007年4月8日 )


プロフィール

ときにはデザイナ、ときにはディレクタ、ときにはプログラマ、ときには何でも屋と、ウェブの世界で未熟ながらもいろいろやっている、コヤナギトモヤです。

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